2015年05月23日

猶予期間

ある雨の日のお話。「……雨か」

先程まで澄み渡っていた天は俄かに暗く陰り、静謐に包まれた森に神の恵みが遍く降り注ぐ。雨が体に打ち付け、容赦無く熱を奪う。
些か寒い。モルに雨具を運ばせ、足早に城へと戻ろうとした時だった。

……どこからか声がする。それも、楽しそうな。
蠱惑めいた声のする方を思わず一瞥する。

雨の中自身の体が濡れることも厭わず、踊っている人影を見た。
お世辞にも上手いとは言えないそれから、どうしてか目を逸らすことが出来ない。

煙たい雨の中、薄ぼけた輪郭が次第に露わになり、息を飲んだ。

「……こんなところで何をしている」

濡れ鼠のような格好で踊っていたのは、レハトその人だった。

「あれ、タナッセこそ何してるの?」
「……そのまま返してやる。今は雨だろう。雨具も着ずに何をしている。進んで風邪を引くなど、大層良い趣味だな」

雨に濡れた影響で、細い体躯が服越しにくっきりと浮き上がっている。
口を弧にし艶やかな笑みを浮かべる彼は、平素より纏う雰囲気が違うように思えた。

「や、雨って珍しいじゃない。折角お恵みって言われてるのに、楽しまないのは勿体無いなあって」

理由は子供相応の馬鹿げたものだった。たかがそれだけで濡れ鼠になるなど、大凡理解出来ない。
……ああ、したくもないが。

「お前はそれでも王を目指しているのだろう。そんな様ではこの国の沽券に関わる」

そうだね、と呟くと奴は一つ嚏を零した。

「……それ見ろ、言った通りではないか。大方後先考えず行動したのだろう。このままお前が王になるなど、考えるだけで怖気が立つ」

反論してこないのでふと一瞥すると、寒いのか頻りに腕を摩っていた。
きっと、私もどうしようもない者に分類されるのだろう。

「……これでも着てさっさと去ね。視界に入るだけで不愉快だ」

あからさまな嘆息をつき、着ていた雨具を投げつけてやる。手渡すなどこいつにしてやる義理はない。
するときょとんと首を傾げた後、何がそれ程嬉しいのか破顔させ足早に去って行った。

「……本当に、どうしようもないな」

呟きは雨に溶けて行った。
posted by ロベリ at 21:09| かもかて小話 | 更新情報をチェックする
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