2015年05月23日

青紫鏡

愛し合い、しかし関係がこじれているタナッセとレハトのお話です。「嫌では、ないのか」

突然彼はなにを言い出すのだろう。

「こんな風に、犯されて、慰み者にされて。嫌では、ないのか」

そう語る彼の顔は苦渋に満ちていた。まるで、糾弾して欲しいのだと。責めて欲しいのだというように。

「私は幸せよ。望んでここにいるの。あなたは嫌?」

彼は視線をふと落とすと、私に頭を預けてきた。

「嫌では……ない。寧ろ、有難い。違う、嬉しいのだ。お前がそばにいて、手の届くところに居て。だのに、私は。お前に何をしているのだろう」
「タナッセ……」

私達は、所謂普通の結婚とは違う道を辿っている。紆余曲折の果て、とでも言おうか。
私は彼を愛している。そこに偽りはなく、ましてや憎悪など微塵も抱いていない。彼も同じはずだ。
でも。
私達は、普通ではない。
確かに愛し合っている。思いあっている。共に寄り添い、語り合い、日々を安穏と過ごしている。

「……すまない」

懺悔の言葉。

時折襲うのは深い不安だった。
紆余曲折の果て。到底信じられぬ、愛の軌跡。不安定ながらも紡いだ軌跡。
いつしか、共にいながらも。脆く細いそれが、やがて千切れ離れてしまうのではないかと。どうしようもない不安に襲われた。

人は言う。

愛し合ったものは硬く繋がれているのだと。どんな運命も砕けぬ絆で結ばれていると。私達は、愛するがゆえに、信じたいがゆえに、その不安定さに怯え、愛にすがり、見えるものを持って証明しようとした。
互いの体の繋がりを、唯一の証明だと。

「すまない……」

謝らないで欲しかった。
私も、望んでいる。彼と繋がることを。私はあなたをうまく愛せているだろうか。不安にさせていないだろうか。
否、こうすること自体が彼の不安なのだろう。

「私は、あなたが大好きなのだと思う」
「……思う?」

不安そうな目。どうかそんな顔をしないで。彼の汗が涙のようにぽとりと肌に落ちた。

「あなたが大好き。それは本当。でも、あなたをこんなにも不安にさせてる。私が、あなたに伝えられていないから。だから一緒に、少しずつ探して行きたいの。触れて、伝えていきたい。思う、じゃなくて、大好きって伝わるように。……私も、怖いの」

怖いなんて、言わないでおこうと思ったのに。
出た言葉は取り消せない。彼はどんな顔をしているのだろう。俯いた顔からは、表情は覗けない。

「不安にさせて、ごめんなさい」

ふいに顔をなぞる温かい手。
抱き寄せる温かい体。
甘く、優しいその言葉。

「同じなのだな。私も、お前も。温もりがなければ信じられない。見えなければ信じられない。私もお前を。こんなにも不安にさせている。……愛してる。他には何もいらない、お前がいれば、それだけで」

人は言う。

私達はおかしいのだと。
それでも構わない。私達は私達の道を行く。踏み外したわけではない。離れているわけでもない。ただ、不安なだけだ。
愛したい。

「大好きよ」

愛されたい。

「私も、愛している」

たとえ今は不安定でも、脆い繋がりでも。お互いに不安を抱いていても。確かに愛はここにある。見えなくて、触れられなくて、とても不安だけれども。
確かにあなたはここにいる。
確かに私はここにいる。

それが、愛の証なのだと。

いつか、気付けるその時まで。私は彼に寄り添おう。きっと彼も、それを望んでくれるはずだから。
posted by ロベリ at 21:05| かもかて小話 | 更新情報をチェックする
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